美容師の仕事には大きなやりがいを感じつつ、勤務時間の長さや残業問題に悩む人は多くいます。不当な扱いを我慢することはストレスの原因となるため、しかるべき対処を取ることがおすすめです。
当記事では、美容師にも適用される労働基準法の規定とありがちな残業問題を解説します。勤務環境を改善するためにできることや、よりよい環境で働くためのヒントを得たい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 美容師の勤務時間は労働基準法によって定められる
1-1. 美容師の休憩時間
1-2. 美容師の残業時間(週)
1-3. 美容師の休日・有給休暇
2. 【種類・ランク別】美容師にありがちな残業問題
2-1. アシスタント・スタイリスト
2-2. フリーランス美容師
2-3. 雇われ店長
3. 美容師が勤務環境を改善するためにできること
3-1. 無駄な作業の見直しを行う
3-2. 店長・オーナーに相談する
3-3. よりよい条件のサロンに転職する
まとめ
1. 美容師の勤務時間は労働基準法によって定められる
勤務時間とは、「休憩時間を省いた始業時刻から終業時刻までの時間」のことです。美容師の勤務時間はサロンの就業規則はもちろん、労働基準法(労働条件に関する基本ルールを示す法律)に則って定められます。労働基準法における勤務時間のルールは、下記の通りです。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
(引用:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号労働基準法」)
つまり、勤務時間の上限は、「1日8時間・週40時間」です。例えば営業時間が9〜18時のサロンでは、基本的に「9時始業・12〜13時に休憩・18時終業」などの勤務時間が設定されます。営業時間の長いサロンでは早番・遅番制度を設け、上限を超えないように調整することが通常です。
なお、美容師の働きやすさは、勤務時間以外の要素にも左右されます。勤務環境の善し悪しを見極める際には、労働基準法における休憩時間・残業時間・休日や有給休暇のルールも意識しましょう。
1-1. 美容師の休憩時間
労働基準法の定める休憩時間は、労働時間(準備や後片付けも含む、使用者の指揮命令下に置かれている時間)に応じて変化します。労働時間別の休憩時間のルールは、以下の通りです。
(引用:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号労働基準法」)
ただし、美容師は多くの場合、毎日決まった時間に休憩を取ることが困難です。予約状況によっては「11時と15時から30分の休憩を取る」など、臨機応変な対応を求められるケースもあります。
1-2. 美容師の残業時間(週)
労働基準法は使用者に対し、労働者に残業させる場合はあらかじめ「時間外労働・休日労働に関する協定」を締結し、労働基準監督署に届け出ることを義務付けています。協定によって認められる残業時間は、原則「週15時間・月40時間」が上限です。
(引用:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号労働基準法」)
多くのサロンでは営業終了後に事務作業やカット・カラー練習などを行うため、多少の残業が発生します。ただし、上限を超える残業は法律違反であることから、しかるべき対処を検討しましょう。
1-3. 美容師の休日・有給休暇
労働基準法は使用者に対し、少なくとも週に1回もしくは4週間に4日以上の休日を与えることを義務付けています。労働基準法の労働時間のルールも考慮すると、少なくとも年105日の休日が必要です。
一般的な美容師は労働基準法に則った就業規則に従って、週1〜2日・月換算では6〜7日の休日数で働くケースが多いと言えます。大型連休を加味した美容師の年間休日数は、100〜110日程度が一般的です。
また、労働基準法は使用者に対し、半年間継続して働いており、全労働日の8割以上出勤する労働者には勤続年数に応じた日数の有給休暇を付与することを義務付けます。勤続年数に応じた有給休暇付与日数の詳細は、次の通りです。
(引用:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号労働基準法」)
ただし、美容師の属する「生活関連サービス業、娯楽業」の有給休暇取得率は51.9%と、他業種も含めた平均値である56.6%を下回ります。1人あたりの有給休暇取得日数は8.8日であることから、やむを得ない状況の時にのみ休める雰囲気のサロンも少なくないと言えます。
2. 【種類・ランク別】美容師にありがちな残業問題
美容師の中にはサロンから勤務時間や残業代に関して不当な扱いを受けており、働きにくさを感じる人もいるでしょう。
ありがちな残業問題を美容師の働き方やランク別に把握して、自分自身のサロンが働きやすい職場であるかを見極めるためのヒントを得てください。
2-1. アシスタント・スタイリスト
アシスタントがサロンの指示でカット・カラー練習を行う時間は「使用者の指揮命令下に置かれている」と言えることから、労働時間に含めなくてはなりません。スタイリストがサロンの指示で、後輩指導を行う時間にしても同様です。
しかし、一部のサロンではカット・カラー練習を行う時間・スタイリストが後輩指導する時間を労働時間と考えず、残業代を支給しません。スタイリストに対しては、後輩指導の対価を役職手当や技術手当の支給により、相殺するケースもあります。
2-2. フリーランス美容師
フリーランス美容師とは、サロンと業務委託契約を締結して働き方を自分自身で決定し、報酬を受け取る美容師です。フリーランス美容師は原則、労働基準法上の「労働者」に含まれないため、残業代を受け取れません。しかし、次の状況下ではフリーランス美容師に労働者性が認められ、残業代を請求できる可能性があります。
・サロンの業務マニュアルに沿った行動を指導される
・指示された仕事を拒否できない
一部には残業代節約目的で業務委託契約を悪用するサロンも見られることから、フリーランス美容師であることのみを理由に、長時間労働を我慢する必要はありません。
2-3. 店長
店長を任されている美容師はサロンから「管理監督者(経営に深く関わり、労働時間を管理されない人)にあたる」と伝えられて、残業代の支給を断られることがあります。
しかし、サロンの店長がすべて管理監督者にあたるとは言えません。勤務の実態が管理監督者にあたらない「名ばかり管理職」と判断される状況では通常の美容師同様、残業代を請求できます。
3. 美容師が勤務環境を改善するためにできること
勤務時間のトラブルを放置すると心身の健康を害したり、モチベーションが低下したりするリスクがあります。まさに今、勤務時間のトラブルを抱えている人は、状況の改善を図るための行動をおこしましょう。
最後に、美容師が勤務環境を改善するためにできることを具体的に紹介します。
3-1. 無駄な作業の見直しを行う
無駄な残業を抑制するためには極力、就業規則で定められた勤務時間内にすべての作業を終わらせることが理想です。勤務時間の長さに悩む人は仕事の現状を見直して、無駄な作業を削減しましょう。
例えば、施術の最中に電話で問い合わせを受けて予約状況を確認し、日程調整を行うと、一定の時間をロスします。Web予約システムを導入すれば、電話対応や確認作業にかける時間の短縮が可能です。
無駄な作業の削減は他の美容師の負担を軽減し、職場全体の効率化にも貢献します。すべての美容師が快適に働ける職場を作るためにも定期的に現状を見直し、改善策を検討することが大切です。
3-2. 店長・オーナーに相談する
勤務時間や残業時間の長さを負担に感じている場合は、その旨を店長・オーナーに相談し、改善を図ってもらう方法も一案です。
店長・オーナーの前向きな行動を促すためには、悩みを相談する際に自分なりに考えた無駄な作業の削減策を提案し、検討してもらうのもよいでしょう。
3-3. よりよい条件のサロンに転職する
近年では働き方改革に注力し、積極的に勤務環境の改善を進めるサロンも見られます。勤務時間の問題が一向に改善されない場合は思い切って見切りをつけて、よりよい条件のサロンへの転職も考えましょう。
転職先を探す際には同様の失敗を繰り返さないため、勤務・休憩・残業時間や休日・有給休暇の規定をあらかじめ確認すると安心です。早番・遅番制度のあるサロンを検討する場合には、すべてのパターンの勤務・休憩時間を確認しましょう。
まとめ
美容師の勤務時間は労働基準法に従い、1日8時間・週40時間を超えないように設定する必要があります。設定された勤務時間を超えてサロンの指示によるカット・カラー練習や後輩指導を行う場合には、残業代の請求が可能です。また、残業代は、実質的には労働者と変わらない条件で働くフリーランス美容師や雇われ店長も請求できます。
勤務時間の長さやサービス残業に不満を感じている人は、無駄な作業の見直しや店長・オーナーへの相談により勤務環境の改善を図りましょう。前向きな努力を行っても一向に勤務環境が改善されない場合は、よりよい条件のサロンへの転職を考えることも一案です。